幼永楽帝

幼永楽帝 – 運命の隠された糸

主人公:少年 朱棣(しゅてい)

明の第三代皇帝・永楽帝となる朱棣。本作ではまだ11歳の少年として登場する。157センチ、47キロの華奢な体つきに、透き通るような碧眼と風に揺れる金髪という特異な容姿を持ち、その人形のような美しさは、誰もが目を奪われる。
東アジア的な顔立ちの中に、どこか異質な西方的な要素が交じり、その見た目は父とされる洪武帝にも、母・馬皇后にも似ていない。そのため、言葉にされることはないが、宮中では彼の出自について密かな疑念が渦巻いている。

純粋で可愛い“仮面”の少年

朱棣は愛らしく礼儀正しい少年で、人懐っこく、誰に対しても丁寧に接する。しかしその笑顔は、純粋さゆえに自分を守るために身につけた“仮面”である。
権力者の子として常に人の目に晒される彼は、針の筵のような日常を生きている。常に「間違えれば見捨てられる」という緊張感の中にあり、自然な表情を許されないまま、周囲に合わせて“愛される子”を演じ続けている。
感情の起伏が激しく、怒りや不安が限界を超えると体調を崩し、熱を出して床に伏せることもある。
一度読んだ文章は忘れないほどの知性を持ちながら、ふとした拍子に涙をこぼしてしまうほど繊細——そのギャップが、彼を唯一無二の存在にしている。

唯一の味方:弟・朱シュク

そんな朱棣が心から信じているのは、年の近い弟・朱シュクただ一人。弟の前では張りつめた仮面を外し、年相応の感情を見せることができる。
朱シュクは兄の弱さと純粋さを誰よりも理解し、その兄を守るためにあえて冷徹な判断を下すようになっている。誰も信じず、必要とあらば嘘も策略も厭わない、感情を切り捨てている。
その残酷さは、兄を守るための純粋な愛からくるものだった。

母と育ての母:血に眠る秘密

朱棣は、色目人の血を引く聡明で美しい馬皇后から生まれた。しかし彼を育てたのは、高麗出身の碽妃(こうひ)であり、朱棣自身は碽妃こそ実母だと信じている。
高麗文化への自然な親しみや、衣装や礼儀作法への独自のこだわりはその影響によるものだ。
一方で、自身の見た目が周囲と大きく異なることや、洪武帝の強烈な父性の不在に、言葉にならない違和感を覚えることもある。
しかしその出自について、幼い朱棣はまだ何も知らない。ただ、時おり洪武帝が向ける厳しい沈黙や、重たいまなざしに、理由のない不安を感じているだけである。

目覚めゆく観察眼:未来の“東廠”へ

宮中で生き残るため、朱棣は幼くして“観察する”ことを覚えた。誰が敵か、誰が味方か、誰が本心を隠しているか——言葉ではなく、仕草や視線で読み取ろうとするその習性は、後の“東廠”創設という冷徹な決断に繋がっていく。
そして、宦官から情報を集めることを既に幼いころから行っている。
本心を決して口に出さず、笑顔のまま人を見つめる彼の目には、すでにただならぬ鋭さが宿り始めている。

涙と怒りが導く未来

朱棣は、まだ自分がどこに立っているのかを知らない。ただ、世界が理不尽であること、誰も本当には自分を見てくれないこと、そして自分の中に強い感情が渦巻いていることだけは分かっている。
時が経ち、彼がやがて「本当の自分」と出会ったとき、あの笑顔の裏に隠されていた激情は、歴史を動かす力へと姿を変えていく。

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