燕王府の黄昏 第3話 静水深く、熱情潜む 秋風が簷のきを渡り、書斎しょさいを叩く。桂はひとり筆を執り、紙面しめんに黙々もくもくと文字を連ねていた。沈思黙考ちんしもっこうの姿勢は、凛りんとした水面のごとく乱れを見せぬ。だが、その内側に潜む熱は、誰に見せるものでもない。 静謐せい... 2025.08.19 燕王府の黄昏
燕王府の黄昏 第2話 孤庭、猫の影ゆらぐ 数日を経て、張ちょうと呼ばれる猫めいた女、まるで性に従うがごとく、朝な夕なに桂けいの周囲を遊弋ゆうよくす。 まるで野良の仔が、塀伝いに己が縄張りを確かめるようなものだ。気まぐれでいて、一途。 奔放に見えて、やけに執着深い。 なるほ... 2025.08.19 燕王府の黄昏
燕王府の黄昏 第1話 孤月に戯る猫 洪武こうぶ十四年、北平ほくへい。明朝みんちょうの威光いこうは天を覆い、燕王えんおう朱棣しゅていの府は帝都ていとに次ぐ絢爛けんらんを誇った。朱塗しゅぬりの柱、絹の帳、黄金の燭台しょくだいーの華はなやぎは地上の龍宮りゅうぐうのごとくであった。だ... 2025.08.19 燕王府の黄昏